第9回

過去の気候と海洋環境を復元して、地球温暖化の将来予測に貢献したい!(後編)

取材先:理学系研究科、地球惑星科学専攻、地球生命圏科学講座 /大気海洋研究所 海洋化学部門 大気海洋分析化学研究室 / WINGS-PES 博士課程1年(取材時)三木 志緒乃さん(以下、「」)

インタビュアー: 石田 悠華(先端生命科学専攻 人類進化システム分野、博士課程1年(取材時))(以下、「」)



【後編】~偶然の出会いが今の研究を始めるきっかけに~


石:この研究に取り組んだきっかけは何だったんですか?

三:私は、元々地学が好きだけど文系だったんです。教育学部に入って、そのまま学校の先生になるんだろうなって思っていました。でも、初等教育(小学校)の生活科の授業で出会った地学研究室の先生が実はバリバリの地球惑星科学の先生で、マンガン鉱床や海のストロンチウム同位体比を研究していました。その先生から地質学、地球化学、古海洋学という分野を知ったんです。もう一人の地学研究室の先生は、放散虫という微化石を調べていました。もう楽しくて、すぐ理転を決意しました。

石:偶然出会った先生方がきっかけなんですね。素敵な先生方と出会えたんですね。

三:そうです!楽しいという気持ちと仲間のおかげで卒論はすごくがんばりました(笑)

石:好きなことは続けられますからね。分かります!

三:それから数年後、東京大学柏キャンパスの一般公開でドイツから帰ってきたばかりの若い先生に会いました。その先生が、サンプルに貝殻、ツールに地球化学という組み合わせで古気候・古海洋学を研究されていて、お話を聞いていてすごく面白くてわくわくました。ラボに女性も多かったことや、子育てしている人が多いコミュニティだったこと、露頭も地元の千葉県にあったこともあり、この研究に取り組むことを決めて、先生に伝えました。

石:三木さんにとってメリットが多かったんですね。

三:メリットといえば、海外のラボも経験したかったので、海外でのポスドク経験のある先生に師事したくもありました。ドイツから戻ってこられて着任したばかりで、学生を一人も受け持っていなかったので、いっぱい指導していただけるかなとも思っていました(笑)

石:ほぼマンツーマンで指導してもらえることに期待したんですね。そこまで考えていたのはすごいですね。

三:ぼんやりでしたけどね(笑)前の大学院をうつ病に罹ってやめていたので、うつ病を克服した今、研究の自主性は保ちつつも学生としてしっかり教育も受けたいと考えるようになっていたからだと思います。人の出会いの幸運が重なって、ここまでこれました。何より、今は研究がすごく楽しいです。

石:楽しいのは大事ですよね。どんなことにやりがいを感じますか?

三:ふだんの実験では、分析機器で貝殻の同位体比を分析して、水温の季節変化がどうだったかを調べています。分析機器を勉強するのは大変ですが、装置を使えるようになったり、トラブルに対応できたりした時のやりがいは大きいです。また学会やシンポジウムで、ツールが同位体であるという共通点で、サンゴやアイスコアなど他のサンプルを使って研究している人とつながれるのもすごく楽しいです。地球化学のコミュニティとはずっとつながっていたいなと思います。

石:研究を通して人とつながって、議論したり他愛もない会話をしたりするのも楽しいですよね。

三:はい!まずは心身健康に、研究や研究を通じた人との交流を楽しんで、一歩一歩頑張っていけたらいいです。

~Diversity and Inclusion を実現するために~

年齢や性別にとらわれない研究環境になればいいな


三:学術振興会のDCやPDの採用制度で、女性が妊娠・出産で休んだら、雇用期間を後ろに繰り越せるようになったことは大きいと思います。出産・育児には周りの理解も重要ですが、大気海洋研究所というコミュニティはそういう点ではとっても理解があると思います。大学院生は、身分としては学生ですけど、世間からしたら社会人の数年目に該当するような年齢ですよね。結婚や出産する人も少なくない時期ですし、研究もがんばりつつ結婚や出産・育児ができる環境が広まったらいいなと思います。あと、私のようなストレートに進学していない大学院生にとっては、”対象年齢が35歳以下”とか年齢制限がある制度や表彰などは気になるところだと思うのですが、”学位取得後何年以内”という制限のかけかたに変わっているものもあり、このような変化がもっと広まってほしいと思います。

石:年齢で区切ってしまうと、いろんな経験をしてきた人は対象になる期間が短くなってしまいますもんね。

三:そうですね、ストレートじゃない経歴でドクターをがんばっている人たちにとってすごく心強いことだと思います。

三:あと、新領域は特にそうだと思うんですが、(国籍や分野など)学生の多様性が高くて、お互いに刺激を受けて共に成長していけるようなフィールドはとても楽しいです。

石:新領域自体、すごくいろんなバックグラウンドを持っている人が多いですよね。

三:はい。私は、国際卓越大学院プログラムWINGS-PESに採用されてまして、メインの地球惑星科学専攻に加えて新領域の授業も履修する必要があります。全部英語ですし留学生ばかりで日本人はほとんどいないので、最初は孤独だったんですけど、今は”次はどんな授業なんだろう、どんな人に会えるんだろう”ってワクワクしています。

石:それは新領域に在籍するメリットかもしれないですね。

三:はい。本当にそう思います。新領域は年齢性別関係なく対等に接してくれる人が多くて過ごしやすいです。異分野の人と対面で交流することで、自分の研究に帰ってきたときにアクセルがかかるような、前向きなフィードバックのかかる環境になっていると思います。

石:そうですね。過ごしやすい環境づくりというのも重要ですね。


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