第2回
微生物、数学、ダム…広い興味から最終的に木に登る研究者に!
【後編】
取材先:環境学研究系 自然環境学専攻 生物圏機能学分野 鈴木牧研究室 博士課程1年(取材時) 藤岡薫子(ふじおかゆきね)さん(以下、「薫」)
インタビュアー: 小林 柚子さん(基盤科学研究系 物質系専攻、竹谷研) (以下、「柚」)
【後編】もやしもん面白い!から木の研究者へ。藤岡さんの研究生活
柚: 研究の多くはフィールドワークで、木に登っていくつも枝の長さを測っているということでしたが、どんな研究生活ですか?
薫: 1年のうち、2、3カ月くらいはフィールドワークで外に出ています。例えば去年のカエデの木の調査は、5月に開花の調査に行って、8月終わりくらいに来年の芽が生えるのでその芽の採集に行きました。秋・冬に、その一年でどのくらい成長したのかを木に登って枝を測って調査しました。
柚: やっぱり木のサイクルに合わせてスケジュールを組むんですね。枝の成長はどうやってわかるんですか?
薫: 枝にも、幹の年輪みたいに、去年の履歴(芽の痕)が残っているのでそこからどれだけ成長したかはその履歴から先端までの長さを測ればすぐにわかります。木に登って、ときにはクレーンで、大量の枝の長さを測ります。
(芽の痕)
柚: 木に登って、枝の成長具合を測ってるんですね。でも、なんで芽を採集するんですか?カエデの高さの成長がなぜ抑制されるか、というテーマですよね。
薫: 成長抑制の要因が開花に関する遺伝子にあるのではと考えているからです。来年の開花に向けて、芽の中ではその遺伝子が発現しているはずなので、それをサンプリングするために取りに行きました。
(採取したサンプルの写真)
柚: なるほど。木の成長という大きなものを相手にした研究のイメージでしたが、遺伝子という小さなものも対象に研究しているんですね。
薫: そういう例はこの分野ではあまり多くはないのですが、小さな遺伝子の世界から巨大な木の成長を説明できるかもしれないのは面白いです。
柚: 博士課程に進んだのは、やっぱりそういうフィールドワークとか研究活動が楽しくてって感じですか?
薫: うーん、どちらかというと、自分が納得できる結果がまだなかったから、研究に未練がある状態で辞めるのは考えなかったという感じです。
柚: なるほど。でも自分が納得すことを大事にする考え方の人は博士課程に多いかもしれないですね。私もそうかも。勝手ですが、自然相手のマクロスコピックな(=大きなスケールで)生物学をやっている人はどっしり構えているイメージがあります。
薫: そうなのかな?!あ、でもたしかに、例えば樹木は一つの個体が何百年も生きていたりするので、それを眺めているとスケール感覚が大きくなるかもしれない。調査も、1年に1回しかチャンスがなかったりもするので、機会を逃すとまだ来年というスケジュールになってしまう。
柚: たしかに。長きにわたって形成される自然環境が相手の研究は、そういった特徴があるんですね。
~Diversity and Inclusion を実現するために~
もっと学び・研究が自由なものになればいいのにな。
薫: 実は私、来年度からフルタイムで働くんです。
柚: え!そうなんだ。研究はどうする予定なんですか?
薫: 続けます!東大の制度で「長期履修制度」というのがあって、申請して認められると、標準で3年の博士課程を例えば5年計画にして、働きながら博士号取得を目指すことができるんです。
柚: へえ!そんな制度があるんですね。博士課程はどうしても経済面できつかったりするので、素敵な選択だと思います。今の研究に関連するお仕事ですか?
薫: いや、それが全然違うんです。研究の方は、業務が終わってからデータ解析したり、まとめたりする生活になると思います。フィールドワークはしづらくなりますが、これまでにとってきたデータもあるので。
柚: なるほど。その選択をしたのはどうしてですか?
薫: うーん、経済的な面もあります。研究だけやっていて、少し煮詰まってしまった部分もあるかもしれない。それで、就職活動してみようと思い立ちました。夕方まで調査に行って、夜帰ってきてから身だしなみを整えてオンライン面接、みたいな感じで就職活動しました。
柚: たしかに、オンラインだからそれができますね。私も会社員を経由して博士課程に進学していますが、博士号取得までの目標が明確になったメリットがありました。
薫: 働いてみて楽しかったらそっちを続ければいいし、やっぱり研究の方が好きとなれば戻ればいいし、昔からの性質でいろんなことに広く興味があるので、今は色々経験してみたいです。それに、ただの会社員としても、博士(環境学)の学位をもってるっていいなと思って。
柚: 業務に直接活かすわけでなくても、博士号はかっこいいですよね。研究というと、若い学生が朝から晩まで研究室にこもるという印象がまだまだあるかもしれませんが、働きながらとか、他の職業を経験してからとか、まずはいろんな選択肢を調べてみることがDiversityの入り口だと思います。それがもっと広がると、研究の世界も多様で豊かになる気がして、わくわくします。