第6回
生命の根本である海を知りたい!から
プランクトン研究者の道へ
【前 編】
取材先:大気海洋研究所 海洋生態系科学部門 浮遊生物グループ
農学生命科学研究科 水圏生物科学専攻 博士課程1年(取材時)玉蟲 奈佳子さん (以下、「玉」)
※修士課程での所属は、新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻 先端海洋生命科学分野
インタビュアー: 石田 悠華 さん(先端生命科学専攻 人類進化システム分野) (以下、「石」)
極小から極大まで、研究者の活躍する空間はいくらでも広がっていきます。今回は大海原でプランクトンを追い求めていく玉蟲さんのお話です。船の上での研究生活がどのようなものか覗いてみましょう。
【前編】サンプリングは海で!
石:どんな研究をされているのか教えてください。
玉:動物プランクトンの群集構造解析(メタバーコーディング)を次世代シークエンサーという塩基配列が大量に読める装置を使って行っています。
石:メタバーコーディングについて詳しくお願いします。
玉:私の研究では、動物プランクトンをネットを使ってサンプリングします。従来、ネットで採ったサンプルは、顕微鏡で1匹1匹観察してプランクトンの分類を行います。ですが、私がやっているのは、採ってきたサンプル全てのDNAを抽出して、特定の遺伝子領域を解析して分類する方法です。これはもともと、微生物ではよく用いられていた方法なんです。DNAバーコーディングと呼ぶのですが、はじめに、いろんな研究者が顕微鏡での形態観察をもとにDNAの配列をデータベースに登録していくんです。そのデータベースに登録されている配列と照らし合わせてどんなプランクトンがいるのか、というのを明らかにする研究をしています。レジでピッピッとするようなバーコードと同じような感じですね。
石:レジのバーコード!例えがわかりやすいですね。その手法は、昔からあるものなんですか?
玉:ネットを用いたサンプリングは、昔から行われていますが、顕微鏡での形態観察がメインだったので、メタバーコーディングという技術が動物プランクトンに用いられるようになったのは、2010年代くらいですかね。顕微鏡で一匹、一匹観察して分類するよりもずっと高速・高感度にどんな種がいるかを確認できるというのが利点です。
(海でのサンプリングの様子)
石:速く、大量に解析できるのはいいですね。サンプリングはどこで行っているんですか?
玉:世界中の海です。わたしの研究対象海域はインド洋と太平洋低緯度域なので、関連する航海に乗せていただくことがあります。
石:一回の乗船で、どのくらいの期間、船の上で生活するんですか?
玉:この写真は、鹿児島から東京まで行った時の写真なので2週間くらいです。ただ、コロナ禍も明けてきたので、今後は外洋の航海の予定があります。それはインド洋で1カ月くらいですね。
(大型のネットを海に降ろす様子)
(降ろしたネットを閉じる指示を出す様子)
石:屋外でサンプリングするの、しかも船の上なんて楽しそうですね。
玉:うーん(笑)電波もないし、みそ汁が波打つくらいすごく揺れますし(笑)、降りる頃にはもういいやって思いますよ。時間が経つとまた乗りたい!ってなるんですけどね。
石:なるほど、実際に乗ってみると大変なんですね…
石:船の上の研究で、他になにか大変なことはありますか?
玉:日中は捕食者(魚類)が多く、潜ってしまっている動物プランクトンも多いので、サンプリングは夜に行われるんです。どこで採るかは事前に決めているので、日が暮れていれば何時であってもその地点についたら作業しないといけないんですよ。
石:昼間は何をして過ごすんですか?
玉:海水の水温や塩分などの環境データをとっています。
石:昼も夜も活発に活動しないといけない…体力勝負でもありますね。
玉:そうですね、陸上とは違って特殊な生活なので大変さはもちろんありますが、貴重な経験ができます。普通の大学院生活とは違う経験ができますよ(笑)