第4回

研究者への憧れから理系の世界へ

【前 編】

取材先:生命科学研究系 メディカル情報生命専攻 RNA機能研究分野 泊研究室 博士課程1年(取材時) 薛 世玲那さん(以下、「」)

インタビュアー: 石田 悠華(先端生命科学専攻 人類進化システム分野) (以下、「」)

理系というと、はじめから文系とは違う道を歩いてきた人という印象を持っている方も多いと思います。でも、人生はそこまでガチガチに固められているわけではありません。今回は、文系の学部を卒業した後に理系の学部に進み、今、タンパク質の研究に挑んでいる薛さんのお話です。

【前編】タンパク質の研究に挑む!

悠:どんな研究をされているのか教えてください。

世:“天然変性タンパク質”という種類のタンパク質の研究をしています。

悠:どんなタンパク質なんですか?

世:タンパク質はアミノ酸がつながってできており、それが固有の決まった形に折りたたまることで機能を獲得すると考えられています。そのなかでも明確な構造をとらない(アミノ酸がきれいに折りたたまらない)まま機能するのが天然変性タンパク質です。その一つにHeroタンパク質というタンパク質のグループがあるんです。私は、これが身体の中でどういう働きをするのか、というのを調べています。Heroタンパク質は、他のタンパク質の固有の構造が崩れ (変性し)、かつ構造が崩れた(変性した)タンパク質同士が寄り集まって、機能しなくなってしまうのを防いでくれるかもしれないんです。

((左図):凝集したタンパク質。これにHeroタンパク質を加えると凝集しなくなる(右図)。)

悠:面白い機能を持っているんですね。タンパク質の凝集を防げると、何かいいことがあるんでしょうか?

世:神経変性疾患やアルツハイマー、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの疾患では、タンパク質が凝集・変性して、はたらかなくなったり、凝集することによって細胞がどんどん壊れていったりするんです。そこで、変性タンパク質を細胞の中で増やすことができれば、こういう病気で起きているタンパク質の凝集を抑制できたりするかもしれません。

悠:今はどんな実験をされているんですか?

世:ヒトの神経系でのタンパク質のはたらきを見るためにiPS細胞を神経に誘導する実験をやっています。神経に誘導して、神経の中で興味のあるタンパク質を増やしたり、減らしたりして細胞にどんな変化が起きるのかを検証する実験をずっとやっています。

             (iPS細胞、神経細胞の写真)

悠:地道な実験を重ねられているんですね。でも、このタンパク質の研究が進めば、病気の治療に役立つかもしれないということですか?

世:そうですね。研究をしていて、現象として面白いなと感じていますし、いつか応用できる日が来ればいいなと思っています。

悠:このタンパク質はどうやって見つかってきたものなんですか?

世:タンパク質を使った実験って、タンパクがすごく不安定だと、凝集しちゃって試験管内での反応がうまくいかないっていうことがあるんです。そういったときに、成分は何かよくわからないけど、溶液を加えたら試験管内のタンパク質が安定して、実験がうまくいったということがあったんです。そこで、溶液の中身がどんなもので、どんなはたらきをしているのか、というのを調べたら天然変性タンパク質だった感じです。

悠:偶然見つかってきたんですね。

世:そうです。本当に偶然。研究室の大先輩が見つけてきたので、今は私が先輩方からその研究を引き継いでいるような感じです。

悠:アレ?と思ったらしっかり調べる、というのが新しい発見につながるかもしれないということですね。

世:そうですね。教科書とか読んでいるともう全部解明されているんじゃないかって思うけど、実はわかっていないことだらけなんですよね。疑問を抱くことは大事ですね。