第10回

動物の生態を明らかにする女性研究者を目指したい!

取材先:新領域創成科学研究科 自然環境学専攻 生物圏機能学分野 久保研究室 博士課程1年(取材時)鬼崎 華さん(以下、「」)

インタビュアー: 石田 悠華(先端生命科学専攻 人類進化システム分野、博士課程1年(取材時)) (以下、「」)


今回は過去に生きていた草食哺乳類がどんな場所でどんなものを食べていたのかを研究している鬼崎さんのお話です。かつての生き物が残した歯の分析から環境の変化、人間の活動の影響へと話は広がっていきます。


【前編】~植物が残した痕跡から動物が食べていたものを推定する~


悠:現在の研究内容について教えてください。

華:私は、過去に生きていた草食哺乳類がどんな場所でどんなものを食べていたのか?ということを明らかにする研究をしています。

悠:具体的にどんな実験をされているのですか?

現生ニホンジカの下顎歯から歯石を採取しているところ。 

華:主に2つの手法を使っています。1つ目は、哺乳類の歯石の中に含まれる植物由来の小さな細胞の化石を調べる方法です。植物の中でも、特に草原に生えているような草本類と呼ばれる植物の葉の中には、「植物珪酸体(けいさんたい)」という硬い物質が含まれます。植物珪酸体は、土の中でも溶けにくい性質を持っていて、歯石の中にパッキングされているということが分かっています。なので、歯石から植物珪酸体(けいさんたい)を抽出すると、どんな植物を食べていたのかを同定することができます。

悠:2つ目の手法はどういったものですか?

華:「歯牙マイクロウェア分析」という方法です。草食哺乳類は草をたくさん食べていたので、歯の表面に傷がついています。歯(特に臼歯)の表面の細かな傷をみると、その傷のつき方から、食べていた植物の特性を推定することができます。

悠:その傷は、特殊な機械を使って観察するのですか?

華:はい、共焦点レーザー顕微鏡を使って観察します。この装置を使って、レーザーを歯に照射してその反射をみることで、表面の凹凸を3Dデータ化することができます。私たちは、レーザーで取得できたデータから、傷の多さや深さを定量的に評価(数値的に判断)しています。

悠:歯についた傷だけじゃなくて、歯石も同時に観察するのですね。

華:はい。これらの2つの手法を組み合わせると、どのくらいイネ科の植物を食べていたのか、イネ科の植物の中でもどんな種類のものを食べていたのかまでわかるようになります。

悠:歯を丸ごとスキャンするイメージですか?

華:歯の全体というよりも一部をみる感じですね。植物珪酸体もマイクロウェアもミクロレベルのものでかなり小さいものを対象にしています。マイクロウェアをみるときは、100µmくらいのすごく狭い領域を見ています。なので、歯の全体をスキャンするというよりは、歯のかみ合っている部分をすごく拡大しているイメージですね。

悠:なるほど。サンプルは日本で発掘されたものを使っているのですか?

華:そうですね。実はまだ化石に応用する段階になっていないので、あくまで予定ですが、日本列島を対象にする予定です。

悠:ヒトとの比較もできるのでしょうか?

華:私が今後やりたい研究には、絶滅してしまった草食哺乳類も含まれています。絶滅してしまった原因が、最終氷期のような環境の変化なのか、人間活動が影響しているのか、など複合的に検討したいと思っています。なので、ヒトとの比較をするというよりも、ヒトとの活動との関わりも見えてくると考えています。

悠:いろんな視点から考察が可能なのですね。面白いです!

悠:最後に、どんなモチベーションで今の研究に取り組まれていますか?

華:マイクロウェアを使った研究はいろんな動物で試されている手法なのですが、「歯石×植物珪酸体」という組み合わせで研究をしているのはまだ世界的にもレアな研究なのです。この動物で実験したのは私が初めてだぞ!っていう気持ちでワクワクしながら取り組んでいます(笑)。

悠:面白い発見があるのが楽しみですね!

歯牙マイクロウェア分析のイメージ図。レーザー顕微鏡を通して歯表面をスキャンする。右側上段は100×140µmほどの領域を拡大したモノクロ画像、下段がそれを3Dデータ化したもの。